齋藤さんのこと

2022-01-19

NHKプラスで見ようと思っていたドキュメンタリー番組が見当たらず、調べたら配信期限が過ぎていた。なあんだと思い、ほかに面白そうなドキュメンタリーは無いかサムネイル画像を見る。『ETV特集 選「ドキュメント 精神科病院×新型コロナ」』というのが目に留まった。どうやらコロナ禍の都立松沢病院に一年間密着取材したものらしい。余談だが、私が東京に住んでいた頃、職場は松沢病院の近くにあった。今も可能かはわからないが、昼の休憩時間に、一人または同僚たちと病院の敷地内の芝生やベンチに座ってパンやお弁当を食べたりした(桜の時期はささやかなお花見をしたこともある)。時間はゆったりと流れ、外を出歩くことのできる患者がずっとぶつぶつ呟きながら歩いていたり、一点を見つめてぼーっとする人、ギターを弾く人など様々だった。彼らと同じベンチで隣り合うこともあった。何も話さなければ話さないし、何か話しかけられたら返したりした。

番組の内容はきっと深刻なんだろうなとは思ったが、「今あの辺はどうなっているのかな」ぐらいの興味で、わたしはそれを見始めた。

当時の院長、齋藤正彦さんの顔が映し出された瞬間、「あ」と思った。見たことも会ったことも、名前すら知らない人なのに「あ」と思ったのだ。「いい人の顔をしている!」。

ブワって感じが一番しっくりくるのでそう書くけど、齋藤正彦さんの顔を見て私はブワっと泣いた。知らない人の顔で泣く人なんているのか。ここに、います。

数日経つが、いまだにそれがどういう心境なのか自分でもよくわからない。ドキュメンタリ番組としても良かったし(良かったという言い方はどうかと思うが)、コロナで浮き彫りになった精神医療の問題点や患者の人権がないがしろにされている現状の問題提起としての意義もあったと思う。その中でも齋藤さんは人一倍ブレない信念を持っているように見えた。真人間という感じなのだ。真ん中に、てこでも動かないどっしりと大きな「愛」が根を張っていて、それに基づいてしか行動しない感じ。それが当たり前すぎて自分でも全く意識していない感じ。ありとあらゆる行動や発言にデフォルトで愛が織り込まれているのにあくまでもサラっと風のような態度であること。愛に基づかないものに対しては静かに怒りをあらわすこと。状況をよりよくするにはどうすればいいのか常に考える人であり、かといって独りよがりにもならず、意見を求め、話を聞き、みんなで考えるようにする感じ。一つ一つの命を同じものとして尊重する感じ。

いや、正直、番組ではここまで映しているわけではなかったよ。これは私が勝手に感じ取ったこと。実際の齋藤さんがまるきり違う可能性もある。でもなあ、遠からずだと思うよ。まっすぐだけどカタブツではなくユーモアもあって、クレバーで、さらに常に勉強もしていて、現場も見ていて、バランスも取っている…

私、齋藤さんの知り合いなの?笑

なんなんだろうね。わかんないです。顔を見て一瞬で「ありがたい」と思ってしまった。神のような人だ、と崇めるわけではないんだけど。しかしさ、そんなことってあるかね? 一目見て涙を流すなんてことがさ。(あったのです)

ネットで拾った齋藤さんの写真をスマホに保存してしまった。精神安定作用がある。さすがに壁紙に設定するまではしないが、つらくなったら見ようと思っている。(齋藤さんフォルダを作っておくこと!)間違った方向に向かいつつあるとき、正しい道に戻してくれる人はこんな顔をしているような気がする。

顔写真を貼るわけにもいかないので「松沢病院 齋藤正彦」で検索してみてください。いい顔でしょう。ただし松沢病院HPの「院長あいさつ」には別の人が表示されていると思います。なぜなら齋藤さんは2021年3月に院長を退任されて、なんと同病院の一医師として最前線の現場に立っているから! ねえ、そんな人いる?

いるんです。