日記

2020-09-24

芸大の学祭に来ている。学生が集まっておしゃべりしたり、絵を広げて何か言い合うような場なのだろう、テーブルが連なる学食風の空間で、私はずっと画集を見ている。古い日本の画家らしいが全く知らなかった。モチーフは和風だがヒエロニムス・ボスの絵に似ている。十数年前にやめたタバコを吸ってしまう。向かい側の長テーブルに父の姿が見えたので知らんぷりをした。

芸大を出て歩いていると、歩道の真ん中に黒いリュックが落ちていた。半分口が開いていて中に葉書のようなものが見える。太い筆ペンで力強く書かれた宛名には、親戚の男の子の名前が書かれてあった。さっき芸大受験や学費のことなど、学生たちにしつこく質問していた子だ(ちなみに学費は全部で2000万弱らしい)。道端に半分開いたリュックを放り出したまま忘れてしまうなんてことがあるだろうか…と奇異に感じないではなかったが、とにかく家まで届けなくてはと思う。途中、不自然に冠水しているところがあり、おじさんが首まで水に浸かって「おーい」と助けを求めていた(あとで、ふざけていただけだったとわかる。立ち上がると水はせいぜい膝のところまでしかなかった)。この先も道路が冠水しているため、まっすぐ歩いて通り抜けられないことを知る。右側にゆるくカーブした道を行くと先が大きくふくらみ、そこに駅が見えた。小さな駅前広場ではひとびとが、局所的に大雨が降っているポイントでずぶ濡れになりながら笑顔で記念写真を撮っていた。私はそれを撮影しようと思ったが、カメラを出すのに手間取ってやめた。そばに、とても大きなポプラの木があり思わず見上げる。晴れているのに、ところどころ雨がさーっと直線的に降っている箇所があり、そこだけがガラスのように鋭くきらめいている。ここにずっといてもしかたがないので電車に乗ることにする。えーと…、大きな路線図も何もなく、手書きで駅名が記された紙が6枚ほど貼られている。どれも知らない駅名ばかり。八幡山まで行くにはどうすればいいのか。まあ適当なところで降りて考えようと思い、いちばん近い「紙魚」行きの切符を買うことにする。紙魚駅前の映画館ではいま貴重な映画が3本上映中だとチラシが貼ってある。どんな映画なのだろう…とぼーっとしていたら、どうやら切符売り場の並び方を間違えていたらしい。苦笑いで他の人に先をゆずる。なんとか無事に切符を買ったところで「リュックの持ち主がいる親戚宅に連絡しておいたほうがいいな」と気がつき、電話をしようとスマホを取り出す。電話帳の「ヒサコさん(リュックを落とした男子の母親)」の名前を確認したところで目が覚めた。

9月24日 朝6時