なつきちゃんのこと

2018-08-03

なぜか突然なつきちゃんのことを思い出したので書きます。

なつきちゃんは小学4年ごろに私が通うド田舎小学校に転校してきました。親の仕事の都合とかだったと思います。青森市から姉妹で転校してきました。

なつきちゃんは、少女漫画みたいに大きくてキラキラした目をしており、その上にはどっしりと太い眉毛が鎮座、頰にたっぷりのそばかす、美形成分より面白みの方がまさってしまったような愛嬌のある顔(今思えばふつうに可愛いと思う)をしていました。そこに黒々としてクセのある剛毛が乗っかり、背格好は小柄で中肉。もっとも特徴的だったのは、ガラガラ・キンキンしたその声。

勉強や運動は苦手、片付けたりするのも不得意なようで、机の中はいつもぐちゃぐちゃ。ドジだったり、言うことが天然だったりして、男子にはよくからかわれていました。なつきちゃんのお姉ちゃんは、なつきちゃんをひっくり返したように正反対でオール5の才色兼備。なにかの行事の時に姉妹で話しているのを見たことがあるのですが、まるで女王様と召使いのようでした。ツンとプライドの高そうな美しいお姉ちゃんに対し、引け目を感じているのか猫背になって困ったような表情でおどけるなつきちゃんの顔を覚えています。私はなんだか胸が痛くなって「なつきちゃんのほうが100万倍いいよ」と思いました。

 

そんななつきちゃんにも輝く瞬間があったのです。

休み時間中、彼女は教室の真ん中で一人芝居をしていました。彼女の周りを取り囲むように人が集まります。ストーリーは主に不穏な恋愛もの。いつもへらへらしているなつきちゃんも一気にグッと目つきが変わり、役に入り込みます。夫婦仲を切り裂く悪女、火遊びする夫、妻の不貞、激しい言い争い、舅のいじめ、離婚そして再婚、実は兄妹だったり、隠し子がいたり、最後は悪い病気であっさり死んだり…という、びっくり設定でドロドロとした昼ドラのような、おいおいどこで覚えてきたんだよ!?っていう大人の愛憎劇を全て一人で演じるのです。
ストーリーもセリフまわしも全部即興。話のつじつまが合わないぞ、などとツッコミが飛ぶこともあったけれど、それでもみんなけっこう面白がってそれを見ていました。子供が大人の世界を真似たお遊び劇ではあるものの、妙にリアリティもあったりして実際面白かったし、こういう子、すごく珍しかったんですよね。

当時クールなタイプだった私に、なつきちゃんは割となついていました。漫画を描く私の机にかじりついてじーっと見たり、いろいろ質問してきたり、たまに上目遣いでベタベタしてきたりしました。正直ウゼェ…って思うこともあったんですけど、私も結構なつきちゃんのことが好きだったし、一目置いていました。

なつきちゃんはおそらく小6ぐらいまで私たちの町にいて、それからまた青森市へ戻っていったように記憶しています。

 

ウン十数年の月日が流れ…
なんとなくテレビを見ていたら、ある高校の演劇部が取り上げられていました。その舞台の様子が映し出され、中心にいた主役の女の子が大うつしになった時、私は息を呑みました。

「なつきちゃんだ!!」

いえいえ、そんなはずはありません。私はすでにアラフォーなのに、なつきちゃんがまだ16〜17歳なわけがありません。でも、嘘でしょ!?っていうぐらいソックリだったんです。

小学校時代、私たちの輪の中心で熱演していたなつきちゃんにしか見えませんでした。顔も背格好も声の感じもそっくりでした。
きっと、なつきちゃんは自分そっくりのあの子を産んだのだと思います。

もちろん、まったく関係がない可能性もあります。

でも私には「なつきちゃんの子ども」というのが一番しっくり来るのです。あんなにそっくりで、演劇に打ち込んでいて、しかも主役だなんて。勝手に私の中でなつきちゃんと主役の子の顔が重なり、感慨深くなってしまいました。

なつきちゃんの子供。私の中で、そういうことにしておきます。
あの子の目、すごくキラキラしていたなあ。