雪国の子供

2018-02-16

東京でたまに大雪が降ると、交通マヒや事故のニュースと合わせて無邪気に雪遊びする子供の映像が流れたりしますよね、私、あれが大好きなんです。坂道でそり滑りをしたり、雪玉をぶつけ合ったり、いびつな雪だるまを作ったり。雪国で暮らしていると雪なんて日常すぎてうんざりしてくるけれど、ああも無邪気に遊ばれると「そうだよなあ、雪は楽しいものでもあるんだよなあ」ということを思い出すのです。

小学生の頃、片道30分歩いて山の上の学校まで通っていました。歩くのは嫌いではなかったし、物語を考えながら歩いていたのでぜんぜん苦ではありませんでした。でも冬場はどうでしょう。きっと大変だったろうな、猛吹雪でも毎日歩いて通ったのだから…と、今大人目線で想像してみたのですが、子供の頃の私からは「べつに大変じゃないけど?」という返事がかえってきました。

確かに、寒い。こればっかりはどうしようもない。身動きが取れなくなって、どこかの家の軒先で友達とうずくまって猛吹雪がやむのを待ったこともあります。それでも、つらいとは思わなかったんですよね。「まあ冬だし」って感じ。スキーウェアみたいな上下綿入りのシャカシャカしたやつ(アノラックとスキーズボンと呼んでいた)を着込み、毛糸の帽子や耳当てもつけてフードをかぶり、温度で色や絵柄が変わったりこするといい匂いがする子供向けの手袋をつけ、中にボアが貼られた長靴(靴底に、ひっくり返すとスパイクになる金具がついてるやつ!)をはいていたから案外平気だったのかもしれません。

それよりも毎日考えていたことは、下校時にどんな遊びをしながら帰るかということでした。
山の上の学校から帰るわけですから下り坂です。それをいいことにツルッツルの路面をスケートリンクよろしくシャーッシャーッとすべりながら帰るのはまあ普通、ランドセルをひっくり返した上に飛び乗って即席ソリだ!ヒャッホーウ!(やってはいけません) なんてのもしょっちゅう、男子と雪玉をぶつけ合ったり、つららを食べたり、小さい雪玉をどこまで大きくできるか転がしてみたり、なにかしら遊びながら帰っていました。

いったん家に帰ってもあたたかい部屋でじっとなんてしていません。すぐまた外に出て、友達の家の近くにかまくらを作り、お菓子や漫画を持ち込んでその中で遊んだりしていました。そんなの、あったかい部屋ですればいいのになんでわざわざ? と大人の私は思いますが、当時はそれが楽しかったんですよね、だって雪でできてるとはいえ子供たちだけの小さなお城ですよ。楽しくないわけがありません。
もちろん雪だるまを作ったり、ソリやミニスキーでも遊びました。小さなバケツやゼリーの容器に、好きな色の絵の具を溶かした色水を入れて外に一晩置いておき、氷点下で凍った色とりどりの氷を取り出して並べ、きれいだな〜って眺めたりもしました。寒さなど、私たち子供にとって大したことではありませんでした。ほっぺを赤くして鼻水をたらし、手足にしもやけをつくりながら、飽きもせず毎日雪で遊びました。

私の通っていた小学校では「雪上運動会」なるものも開催されていました。競技はよく覚えていませんが、雪上サッカーをしたり、雪の中に埋められたミカンをみんなで掘り出した記憶があります。
また、冬の体育の授業には「歩くスキー」がありました。まあクロスカントリースキーですね。学校にスキーと靴が用意されているので自分のサイズに合ったものを装着し、校庭を抜け、裏山までの雪原や林を滑走し、到着してからはみんな思い思いに滑って楽しむことができました。ムカデのように連なって滑ってみたり、男子はジャンプ台を作ってジャンプしたり一回転してふわふわの新雪に飛び込んだりしていました。私の体育の成績はずーっと「3」でしたが、冬の体育はけっこう好きだった気がします。

吹雪の中をちょっと歩いただけで「寒い寒い寒い耐えられない雪ウザい顔痛い目開かない息できない寒い寒い寒い」と文句しか言えないヤワな大人になってしまいましたが、寒さに耐えうる精神力と過酷な状況をも楽しめる雪国の子供のタフさが今も私のどこかに息づいているといいな。
あたたかい部屋であたたかいスープを飲みながらそう思うのです。